“ この世界の何処かには、種がある。決して咲かない種が―――― ”





優しい声が紡ぐそれは、この世界の伝承。
遠い昔、八百万の神々が世界に与えた慈悲。

日々、争ってばかりの人々の姿に嘆き悲しんだ神々の一人が与えたのはたった一つの“種”
人の憎しみを糧にするその種は、決して咲く事はない。
どれだけの月日が経とうとも、芽を出す事はなく、育つ事もなく、花を咲かせる事もない。
ただ、世界の何処かで人知れず憎しみを糧にし続けるだけ。



――――その、筈だった。



世界の安寧を保つ為に賜った種。
世界にはびこった憎しみを糧にし、永劫の時をかけて浄化する力を持った種。
神から“種”を与えられて幾星霜。
絶える事のない人々の憎しみは、種の在り様を様変わりさせたのだと、いつしか囁かれ始める。

それを裏付けるように、世界のあちらこちらに毒々しい植物が見かけられるようになった。
まるで吸い取った憎しみを体現したかのような、濃い紫の植物。



決して、咲く事のない種。
もしも、その種が花開いてしまったら――――。



やがて、人々は思い知らされる。
何千年と言う時をかけて生み出された憎しみの、その恐ろしさを。








――――世界に、破滅の歌が満ちる。








オリジナルダークファンタジー堂々の開幕!








2010年のエイプリルフール用の即興オリジナル小ネタでした。