春は穏やかに過ぎて

 瀞霊廷にも春がやってきた。
 日増しに気温は温かみを帯び、木々の緑や空の青、花々の色がとても綺麗だ。
 鳥は高らかに鳴きながら空を舞い、地上近くを蝶が舞う。
 さて、そんな外の春の麗らかさと共に、護廷十三隊にも入隊の時期が訪れた。これからを担うべく、真央霊術院を卒業したきたばかりの新しい顔触れが揃っていた。
 皆、これから始まる死神としての生活に不安半分、期待半分と言った所だろうか。
「ふわ−…新しい人が一杯だ」
「当たり前だろ。入隊式なんだから」
 桃の呟きに、日番谷が間幕をいれずに突っ込んだ。突っ込まれた張本人は大して気にした様子もなく新隊員達を眺めている。
「私達にもあんな時代があったんだよね−。懐かしいなぁ…」
「お前……何十年昔の話をしてんだよ……」
「何十年前かな…でも私より後に入学したのに、日番谷君の方が先に護廷十三隊に入隊決定しちゃったよね−」
「あ−……だったな」
「あれは流石に悔しかった」
「そうなのか?」
「うん」
 自分達にも確かに、期待と不安を抱きながら死神への一歩を踏み出した瞬間がある。不安を期待を抱きながらも、それでも真っ直ぐに前だけを見据えている時期が。
 今でも前を見据えてはいるが、あの頃のような不安はない。彼らのような初々しさはもう、ないのだ。
 それらはもうすでに、遠い昔の話。
「さって、行こうか。十番隊長さん」
「だな。あんま遅くなると松本のやろうがうるせぇからな」
「それは普段、日番谷君が仕事サボりすぎなのが原因でしょ?」
「うるせぇ」
「日番谷君は図星を突かれると、眉間にシワが増えて絶対そう言うよね」
「……………そう言うお前は嘘を吐いたら、目が泳ぐな」
「……」
 お互い顔を見合わせる。ほんの少しの沈黙。すぐさま、真顔は笑顔へと変化する。
「じゃ、改めまして。行こうか、十番隊長さん」
「あぁ、五番隊副隊長」
 ニッコリと微笑みあって、立ち止まっていた歩みを再び進めだした。
 入隊員と先輩格の死神達を見守る空に、桜の花びらが風に乗って舞い踊っていた。
 こうして、春の日は穏やかにすぎゆく。

春と言えば新しい出会いと言う事で。
入隊式って各隊でやるのかしら。それとも全体でするのかしら。