禁句事項

 日番谷は桃より背が低い。
 これは本人自身も周囲も認識している事実である。その事が悔しい事は悔しいが、身長などそう簡単に伸びる物でもないので致し方ない。勿論、日夜、伸ばす為の努力は厭わないでいるのだが。
「………今、何つった?」
「え………っと…?」
 急に下降を始めた日番谷の雰囲気に、桃は自分が地雷を踏んだ事に気付いた。慌てて、先ほど自分が言ったセリフを思い起こしてみる。
 乱菊からコッソリと聞かされた事実から自分が思った事を思わず口にしてしまったような覚えが桃にある。と言う事は、恐らくはあのセリフだろう。
「あぁ、もしかして“可愛い”って気に喰わなかったの?」
「当たり前だろ−がっ!!」
「え? どうして? 私、言われたら嬉しいよ?」
「そりゃ雛森は女だからな。何処の世界に可愛いと言われて喜ぶ男がいるんだよ!!」
 桃が乱菊から聞いた事。
 身長を伸ばす為にコッソリと牛乳を飲んでいると言う話だ。それでなくても、身長が低い事で弟扱いされる事が多いのを密かに気にしていると言うのに。桃本人から“可愛い”と言われるのは嬉しくも何ともないに決まっている。
「ん−……市丸隊長とか?」
「…幾ら何でも市丸のやろうも可愛いは喜ばね−だろ…」
「そうかなぁ…何か喜びそうな感じなんだけど…」
 幾ら張本人が居ないとは言え、随分な言い草である。
「兎に角、だ! 今の言葉は訂正しろよ!」
「え−…だって……」
「だってじゃねぇ!」
「身長差気にしてるんでしょ? そう言うトコが可愛くて、差をなくそうと努力してる日番谷君が愛しくて大好きなんだもん」
 サラリ、と桃が言ってのけた。
 面食らった表情をして、一瞬後、日番谷が頬を僅かに紅潮させる。
「〜〜〜〜〜〜っ!!!! 雛森………お前なぁ!!! そう言う恥ずかしい事を真顔で言うんじゃねぇっ!!!!」
 顔を真っ赤にしたままで日番谷が怒鳴った。が、照れ隠しと分かっている桃には意味はない。
「本当の事だし」
「お前なぁ!! 可愛いって言われたら男としてどうなんだよ、それは」
「良いんじゃない?」
「良くねぇっ!!」
 ポンポンと飛び交う言葉の応酬に終わりはなさそうだった。
 そしてその喧嘩のようなじゃれあいの所為で、所用で執務室を出ていた乱菊が入りにくそうにしていた事を知るのは後日の話。
 知ると同時に、日番谷は乱菊にからかわれる事となるのだがそれもまた後日の話。

日雛。
バカップルと成り果てました。雛森の言動にアタフタする日番谷が好きです(笑)