Visit of Autumn

 辺りを通り過ぎていった風の冷たさに、身震いを覚えた。
「随分と寒くなってきたなぁ……」
 明け方の気温が寒くなり、夏が過ぎ去り秋の気配を感じさせるようになった。青々と茂っている木々の葉も、その内綺麗に色付いてゆくのだろう。
 これから気温もどんどんと下がり、完全に秋が訪れるのも遠くない未来の話だ。
「秋と言ったら……焼き芋かなぁ…」
「食欲の秋かよ」
 独り言のつもりだった呟きに、突っ込みが入るものの、その突っ込みを入れた人物の正体に気付いて桃が後ろを振り返った。
 少し、自分よりも低い位置にある顔へと視線を向ける。
「食べないの?」
「食べるけどよ」
「良いじゃない、食欲の秋。秋と言えば栗や芋、松茸、柿! 美味しい味覚が一杯。美味しく食べれる時期に、美味しく食べる。贅沢よね〜」
 心底幸せそうに桜乃が語る。
 美味しいものを美味しい時期に食べる事については、異論はない。旬の時期に食べる物は一際美味しい。だが、食べ物以外に言う事はないのか、と少々疑問に思う。
 運動とまでは言わないが、読書くらい言っても良いのではないだろうか。
「本は読まないのか?」
「あ、読書の秋だもんね」
「新作が出回る時期だからな」
「ふふ……楽しみにしてる本があるんだ−」
「ミステリ−か?」
「うん、そう」
 日番谷程ではないが、桃もかなりの読書好きである。特に、ミステリ−の類を好んで読む。
「美味しいものを食べながら、本を読む。秋の過ごし方、決まりだね」
「お前だけな」
「え−、日番谷君もやろうよ−」
「断る」
「ケチ−」
「五月蝿い!」
 じゃれ合うような言葉の応酬を続けながら、日番谷と桃が渡り廊下を歩いていった。一部、微かに紅葉した葉が風に舞って、二人が立ち去った廊下へと落ちた。

日雛。
朝夕が大分、肌寒くなってきた頃の突発日記SS。