Trick or Treat

 パァンッ。
 大きな音が響き、眼前に紙吹雪がヒラヒラと大量に舞った。眼前に近い場所で鳴らされたクラッカ−のその奥では桃がニコニコと満面の笑みを浮かべているのが見える。
「……雛森?」
「ビックリした?」
「当たり前だ」
 桃の突飛な行動に耐性があるとは言え、目の前でクラッカ−を鳴らされれば、流石の日番谷も驚く。
 と、言うか。クラッカ−は人に向けて鳴らしてはいけないと言う注意書きがあったような気がするのは、日番谷の気の所為か?
「おい、雛森」
「何?」
「クラッカ−を人に向けて鳴らすなって注意書きなかったか?」
「あるね」
 手元に残ったクラッカ−の本体の注意書きに視線を落として、雛森が笑った。プツリ、と何かがキレるような音がしたかと思うと、日番谷が文句をまくし立てた。
「アホかっ!! 鳴らすなって書いてあんなら、鳴らすんじゃねぇ! 何処の子供だ、お前は!!」
「一応、日番谷君よりかは年上なんだけど」
「だったら、尚更、んな事すんな!」
 一般論を並べ立てて見るが、あまり桃に効果はない事を知ってはいるが。それでも言わずにはいられない。
「分かった。で、日番谷君」
「…何だよ」
「とりっく おあ とり−と?」
 ニッコリと笑って、小首を傾げて。
 桃が日番谷に問うた。その言葉に、日番谷が眉間にシワを寄せた。
「何にも持ってねぇぞ」
「なら、悪戯だね〜」
「何するつもりだ? お前」
 日番谷の言葉に答えず、桃はただニッコリと笑うだけだ。しかし、その手に持たれた物を見れば、何をするつもりなのかは一目瞭然だった。
 手馴れているのか、ササッと日番谷の髪をいじる。
「今日一日、これで過ごしてね?」
「……マジか?」
 見せられた鏡の中には、銀の髪に青いリボンが数本、結ばれている。ハッキリ言って、似合わない事、この上ない。
「とっちゃだめだからね」
「……」
 今後、最低一つはお菓子を持っていようと心決めた日番谷だったとか。

日雛。
多分、十番隊隊舎着く前に取ったと思います。