素直じゃない

「雛森」
 呼ばれた声に振り返った先にいたのは、書類を片手に持った日番谷と同じく書類を持った乱菊だった。
「日番谷君! 乱菊さん!」
「久しぶりね、雛ちゃん」
「はい」
 暫く、仕事で現世へと渡っていた。その仕事もようやく終わり、尸魂界に帰ってきたばかりなのだ。
「大丈夫だった?」
「大丈夫です。これでも副隊長ですし」
「そうね」
「でもドジで危なっかしいのには変わりねぇだろ?」
「日番谷君ひど〜いっ!」
「本当の事だろ?」
 乱菊と桃の会話に、日番谷が茶々を入れてくる。口ではからかっているが誰よりも日番谷が心配していたし、戻って顔が見れて誰よりも嬉しいのも日番谷だ。
「……………素直じゃありませ」
「何か言ったか? 松本」
「………いえ」
 ボソリと呟いたセリフの語尾に掛かるように日番谷が言葉を重ねる。小声の筈なのに聴こえているとは、ある意味、地獄耳である。
「相変らず、仲良いねぇ、十番隊は」
「「そう?」」
「うん。あ、そろそろあたし行くね? 報告書書かなきゃだし…」
「あぁ、呼び止めて悪かったわね、雛ちゃん」
「いいえ」
「おい、雛森」
 再び声をかけられて、桃が日番谷に視線を向けた。日番谷は何やら袖口をゴソゴソと漁っている。
 その内、見つかったのか、袖口を漁っていた手を桃の方に突き出してきた。
「ほらよ」
 ぶっきらぼうなセリフと共に手渡されたのは、淡い色合いが綺麗な紐だった。紐と日番谷をかわるがわる見つめる。
「お前、この前誕生日だったろ? 偶々思いだしたからな」
 違う方向を向いたまま日番谷が言う。傍に居た乱菊がクスリ、と笑った。
「あんな事言ってるけどね、雛ちゃん」
「はい?」
「かなり前から用意してあったのよ、それ」
「松本っ!!!!」
 隣に自分がいるのにも関わらず、サラリとバラされた事に日番谷が抗議の声を上げる。が、乱菊が気にする様子はない。
「ありがと………すごく嬉しい」
 手にしていた紐を胸元でギュッと握り締めて、桃が心底嬉しそうに微笑う。何度見ても慣れる事のないその笑みに頬を染めながらも、日番谷がバツが悪そうに言う。
「だから、偶々って言ってんだろ!?」
「………素直じゃないなぁ」
「俺は何時でも素直だ!」
「……いや、自信満々に嘘言われても困るよ」
「だぁ! 抱きつくな、雛森っ!!」
「や−だ、だって誕生日でしょ? 良いでしょ?」
「どんな理屈だ…つ−か、誕生日はこの前の話だろ!?」
「え−…」
「え−じゃねぇ! 離れろ!」
 心底嬉しそうな桃と、セリフの割には嬉しそうな顔の日番谷のじゃれあいはその後しばらく続いたとか。

日雛。
バカップル。