その心を、誰が知ろうか。

 見慣れた後ろ姿が一心不乱に斬魄刀を振るっていた。払い、突き、切りに加えて、時折、精神を集中させては、鬼道をも放つ。
 護廷十三隊五番隊隊舎の訓練室。
 其処に、桃はいた。他の隊員の姿は見えない。広い訓練室に桃一人――――否、日番谷もいるから二人だけ。
 桃は一生懸命刀を振るい、日番谷はそれを後ろから見ている。
「おい、雛森」
 短く、声をかけた。
 刀を振るう手が止まり、紺色の瞳が振り返ってこちらを見つめる。
「何? シロちゃん」
「その呼び方やめろって言ってんだろ」
「まだ真央霊術院卒業してないんだから、シロちゃんで十分。それで、何?」
 日番谷の非難を軽く受け流して、再び用件を促す。何度言っても直らない呼び方に一つ、溜め息を落として、日番谷が口を開いた。
「お前、少しは休憩取れ。さっきから休憩取ってないのは分かってんな?」
「分かってるよ」
「なら」
「でも、強くなりたいんだもん。藍染隊長の役に立てる死神になりたい。だから、時間が惜しい」
「……」
 そう言う桃の顔は何処までも真剣で。藍染の役に立ちたいと願う想いで一杯で。
 正面から直視出来ず、フイッと桃から目をそらした。家族以上の気持ちを寄せる者として、見たくはない。
「……馬鹿か。鍛錬も必要だろうがな、休息も必要なんだよ。それも分からないんじゃ、何時まで経っても役には立てないぜ」
「む−……分かった。じゃあ、休憩取るね」
 握ったままだった刀を鞘に戻して、日番谷が座っている訓練所の端へと歩いてくる。 その姿を見ながら、日番谷は他には分からないくらい小さな溜め息を一つ、その場に落とした。
 頑張っている姿を見るのが嫌いなわけではない。ただ、自分ではない他の人の為に頑張る姿を見るのを厭う、と。そう思うその心を、彼以外の誰が知ろうか。

私にしては珍しい藍←雛←日。
雛、五番隊入隊直後くらい……を想定してるんですが、果たして真央霊術院生の日番谷と会う暇はあるのだろうか。