「……雛森」
「何?」
「可笑しいと思わないか?」
「そう?」
じんわりと湯のみを通して手のひらに伝わる温もりにホッと一息吐きながら、日番谷が目の前に置かれた物を見て、眉間にシワを寄せた。
湯のみに入っているのは温かな湯気を立てる烏龍茶。それは良い。だが烏龍茶と共にお茶請け宜しく目の前に置かれた赤く小振りな果物はどうなのだろうか。
「何で烏龍茶で苺なんだ?」
「どっちも貰い物だから」
日番谷の問いに桃がニッコリと笑って答えた。
そう、別に桃に他意はない。たまたま烏龍茶を貰い、続けて苺を貰っただけなのだ。
「烏龍茶だから中華菓子にしようかなって思ってたら、乱菊さんが苺くれたの。せっかく貰ったから、お茶請け代わりにーと思ったんだけど……駄目だった?」
「あわねーと思うんだけど」
「そうかなぁ……」
小粒の苺を一つ口に含んで、桃が首を傾げた。
噛み潰せば口の中一杯に広がる甘酸っぱいその味が、桃はとても好きだ。今やハウス栽培で何時でも手に入るとは言え、春の代名詞たる果物。
あぁ、春が近づいたんだなぁと、シミジミ思う。
「美味しいのになぁ、苺」
「誰も不味いとは言ってねぇだろ。烏龍茶とあわねぇって言ってるだけで」
「物はチャレンジだと思うけど」
「変わり種は嫌いなんだ」
キッパリと日番谷が言い切る。
あまり変わった組み合わせが、日番谷は好きではない。決まった味付けで美味しく頂きたいと言う考え方なのだ。下手に変わった物に手を出して美味しければそれで良いが、不味かったらと思うといまいち、手を出す気にならない。
「じゃあ、今から何か持って来ようか」
桃自身は苺がお茶請けでも全く構わないのだが、日番谷は構うらしい。元々、お茶請けとして考えていた煎餅でも持って来ようかと、手にしていた湯のみをお盆の上に戻した。
「いや、いい」
「いいの?」
「あぁ。別に茶菓子がないと茶が飲めない訳でもないしな」
湯飲みに口を付ける。
温かな液体がジンワリと体を温めてゆくのを感じる。
「春になったら緑茶にお団子かなぁ」
「……お前、食う事しか考えてねぇなぁ」
「美味しいから良いの」
「…………太るぞ?」
「そう言う事言わない!」
ポツリと呟かれた日番谷の言葉に、桃が即答で叫び返す。あまりの速さに日番谷が唖然とし、それから小さく苦笑した。
何はともあれ、春はもうすぐそこまで来ている。