雨止んで

 ついさっきまで降り続いていた雨が嘘のようにカラリと晴れた。未だ鈍い色をした雲こそあるものの、空には青空が広がっている。
「わぁ……」
「止みましたね」
「ですね」
 空を見ての麻衣の呟きを偶然、聞きとめたリンが麻衣に対応を返す。振り返って、後ろに立つ長身の青年に向かって笑った。
 少々前からこの辺りで調査をしていた。ちょうど調査も終わりと言う日に酷い雨に降られてしまった。慌てて青いシ−トをかけたものの、雨足は弱まらず、機材の撤収が出来ないでいたが、ようやく止んでくれた。
 これで機材の撤収が出来ると言う物だ。
「お−い、ナルちゃんや。もう回収始めて良いのか?」
 麻衣にナル、リンに安原の他、何時ものイレギュラ−ズメンバ−も居る。皆で雨が通り過ぎていくのを待っていたのだ。
 滝川に声をかけられたナルが後ろを振り返った。
「えぇ、構いません」
「よっしゃ。んじゃ、始めますかね。おい、綾子。何素知らぬ顔してんだ、お前は」
「マニキュア塗ったばかりなのよね、あたし」
「…お前なぁ…」
 爪を見せて笑う綾子に、滝川が肩をガックリと落とす。
 そのまま食って掛かりそうな滝川を宥めるのはジョンの役目で、滝川をからかって遊ぶのは安原の役目だ。
 そうして何時ものやり取りが始まろうとした時、麻衣が声を上げた。
 自他共に認める麻衣の父親が即座に反応をする。ジョンや真砂子、綾子達も何だ、とばかりに麻衣の方を見る。
「どうかしましたか、谷山さん」
「え? あ、綺麗な虹が掛かってたんで……」
 そう言って、麻衣が空の一角を指差した。
 赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の7色の光の道が空の一角に掛かっている。
「お−…こりゃ綺麗に掛かったな」
「でしょ。私、こんなに綺麗な虹見るの始めてなんだ−」
 虹を発見出来たのが相当嬉しかったのか、麻衣の声が弾んでいる。滅多にないくらい綺麗に掛かった虹に誰もが目を奪われていた。
 が、当然、そうならない人物もいる訳で。この状態を見過ごすほど優しい性格でもない訳で。当然と言えば当然の事で叱責の声が飛んでくる。
「ナル、見てみて。虹だよ。綺麗だね」
「色のついた光を見て楽しいのか?」
「夢の無い奴だね……相変らず」
「お褒め頂いて光栄ですよ、谷山さん。さっさと撤収作業に戻れ」
 ニッコリと黒衣の麗人が綺麗に笑った。が、それが怖い事を知っているのは今、ここにいる人物達だけであろう。
 ナルのセリフに不満を言いながらも、皆、撤収作業に戻っていく。
「あ、そう言えば…虹のふもとには宝物が埋まってるんだってね」
「非現実的だな」
「いいじゃん、ロマンがあって」
 ナルに笑って見せる。
 麻衣のセリフにナルが溜め息を吐いた。
「あんた…今馬鹿馬鹿しいとか思ったでしょ」
「よくお分かりで」
「ナルの馬鹿−っ!!!」
 ムウッと膨れて怒鳴りつける。が、ナルに効く筈もない。そして、そのナルの態度が麻衣の怒りを更に煽っている事にナルは気づかない。そうして、今日もまた恋人同士のじゃれあいが勃発したのだった。
 空に掛かる虹は周囲の夕焼けに溶けて、見えなくなろうとしていた。

ナル麻衣前提でのオールキャラ。多分、何処かの調査終了後。
こう言うやり取りを書くのは楽しいです。