明日、天気になれ

 空を鈍い薄灰色の雲で覆い隠し、雨は止む気配を見せずにザアザアと降り続けていた。
 今日で既に三日か四日目になる。全くと言って良い程止む気配を見せない雨を眺めつつ、麻衣が一つ、溜め息を落した。
 雨が止まない事には洗濯物が溜まっていく一方だ。洗濯はする物の、高い湿度の所為で乾くのは遅く、生乾きの洗濯物が多い。
 室内の湿度が高く、ジメジメとしていて、はっきり言って、不快である。
「…雨止まないね」
「そうだね」
 琥珀色の液体を入れた淡い緑色のティ−カップを置きながら、麻衣が仁に声をかけた。一瞬、窓の外に視線を向けて、再び視線を麻衣へと戻す。
「こう雨が降り続くと、洗濯物乾かないし、溜まるし。嫌いじゃないけど、長雨は困りものだね」
 数日前に作り置きしておいたクッキ−を皿に出して、テ−ブルの上へと置く。甘さ控えめなクッキ−は甘いものが余り好きではない仁でも食べられる程良い甘さだ。
 砂糖の代わりに蜂蜜を使ったソレは柔らかい甘さで、仁も気に入っている。
「……お母さん、乾燥機使ったら? こう言う時の為にあるんだと思うよ、乾燥機」
「だって、勿体ないじゃない、乾燥機なんて。電気代の無駄」
「……お母さん」
「遅いとは言え、自然に乾くのよ? 勿体なさすぎ」
 キッパリと麻衣が言い切る。
 肉親に先立たれて以後、貧乏……もとい慎ましやかな生活を送っていた麻衣にとって、乾燥機など贅沢の極み以外の何者でもなかった。その認識は今も抜けないままでいる。
 便利だろうなぁ、とは思うものの、敢えてそれを使おうと思った事は一度もない。長年の生活の癖なのか、どうしても無駄だの、節約だの言う単語が頭の中に浮かんでしまい、使う気に慣れないのだ。
「そう言う慎ましい所はお母さんの良いトコだと思うけど、洗濯物溜まる一方だよ? もう後二日から三日は雨止まないみたいだし。溜まったら洗濯大変でしょう?」
「それはそうなんだけどね」
「お母さん、お仕事もしてるし、家の事もしてるし、忙しいでしょう。僕、お母さんに無理して欲しくない」
 クッキ−を一枚、手に取りながら仁が呟く。
 何よりも母親が好きと豪語する仁としては、少しくらいは文明の利器に頼れば良いんじゃないかと思う。
 一日の量はそうなくとも、数日溜まれば洗濯だって結構な重労働だ。麻衣は働いている。その上で洗濯や炊事などもこなしている。働いている主婦はほとんどやっている事だが、それでも無理はして欲しくない。
「仁……」
 フワリと麻衣が笑む。
 一人息子の優しい言葉が胸に染みる。心配して貰って、嬉しい。
「じゃ、仁に心配かけない為にも、たまには乾燥機使うように心がけます」
「うん」
 お互い顔を見合わせて、微笑む。
「雨が止むようにてるてる坊主作ろうかな」
「迷信だよ?」
「気持ちだから良いんだよ」
「じゃ、僕も一個作ろうかな」
 明日が天気になる様に思いを込めて。
 まずはてるてる坊主を作る事にしましょう。

家の息子は名前を仁と言います。外見はまんまナル。性格は麻衣寄り。ただし、母親大好きっ子。
ユンナの楽曲から思いついた話です。タイトルも拝借。