Happy Birthday to you.

 天気の良い日だった。
 四月も半ばに入り、気候はポカポカと温暖で暖かい。青く澄んだ空には鳥が舞い、野 には名も知られぬ花が蕾を綻ばす。
 バサリ、と干された洗濯物が風に踊った。青と白の対比が綺麗で、清々しい。
「ゆやさん」
 名を呼ばれて、ゆやが後ろを振り返った。動きにそって、長い金糸の髪がフワリと揺 れる。
「アキラさん? どうかしましたか?」
 小首を傾げて問えば、アキラが何時もと変わらない穏やかな笑みを浮かべて、口を開 いた。
「コレを」
「?」
 差し出された手に視線を落とせば、白い可憐な花を模って作られた繊細で小さな髪飾 り。
 思わず、アキラの顔と髪飾りを交互に代わる代わる見つめる。
「アキラさん?」
「今日、誕生日でしょう? お祝いですよ、おめでとう御座います」
 告げられた言葉を理解するのには数秒かかった。
 兄が死んでから数年間、誰にも告げてもらえる事のなかった言葉。
 これから先、言われる事はないのだろうな、と思っていた言葉を告げられて、嬉しく て嬉しくて。
 嬉しさと幸せな気持ち一杯の笑顔は、花が綻ぶように綺麗な微笑みで。
 目に見える訳ではないが、フワリと動いた気配で察して思わず、見とれた。
「有難う御座います、アキラさん」
「…いいえ、喜んで頂けて光栄です」
 髪を括っていた紐を解くと、絹糸のように細い金の髪が宙に舞った。イソイソと受け 取った髪飾りで髪を結わう。
 先ほどと同じように後ろでひとつに纏めてしまうと、クルリと後ろを向いた。
「似合いますか?」
「私には見えませんけど、似合いますよ、絶対に」
「あ、そうか……ごめんなさい」
「気にしなくても良いですよ、ゆやさん。あんまり盲目には見えないそうですから、私 は」
 そう言って、アキラが小さく苦笑する風を見せる。
 盲目の筈なのだが、気配を読み取って普通に生活をしているから、ついつい忘れがち になる。
「……」
「ゆやさん?」
「私が誕生日って事は…アキラさんも誕生日ですよね? 今日」
「え…」
「おめでとう御座います」
「…よく知っていましたね、私の誕生日」
「前に梵天丸さんから聞きました」
 そう言ってフワリとゆやが笑う。
「あ、でもどうしよう…何にもプレゼント用意してないんですけど…」
「構いませんよ」
「でも私だけ貰うのは………あ、アキラさん。ちょっと屈んで下さい」
 ゆやがアキラの袖を引いた。言われた通りに素直に身を屈める。
 フワリと頬に触れた感触があって、そんなに間も開けずにその正体に気付いて、傍目 には分からない程度にうろたえる。
 頬に触れたのは間違いなくゆやの唇で、ならば頬にキスをされたと言う事で。
 冷静に考えている反面、何処かパニックになっている自分をアキラは感じた。
「ゆ……ゆゆゆゆゆやさん!?」
「お手軽で申し訳ないんですけど…一応、お祝いの気持ちと言う事で」
「……有難う御座います」
 顔を見合わせて、フワリと笑った。

アキゆや。
アキラ&ゆや誕生日記念SS。何気にサスゆや以外のCP初めて。