花冠

 緩やかに吹く風に、細く綺麗な金糸が舞った。
 青々と綺麗な新緑の野に咲く花も緩やかな風に、花をサワサワと揺らしている。
 広い野原にポツンとゆやが座っていた。そして膝の上に頭を置いてサスケが穏やかな 寝息を立てていた。
 サスケは寝ているし、他の仲間達の姿はない。仕方なく、近くに咲いている花を摘ん では編んで、花冠を作っている。相当の時間そう言う事をしていたのだろう。現にゆや の頭には一つ、花冠が置かれているのだから。
 黄色、白、赤、橙、桃。色とりどりの花を摘んでは器用に編みこんでいく。
「ふぅっ。で−きた」
 手ごろな大きさの花冠を見やって、ゆやが笑う。そしてそのまま、眠っているサスケ の頭に花冠を飾った。
 銀糸の髪に、色とりどりの花を使った花冠が映える。
「うん、可愛い」
 眠っている本人が聞いたら、ショックを受けるであろうセリフをサラリと口にする。
 満足そうに頷いた時、閉じられていた瞼が振るえて、金に輝く瞳が姿を現した。まだ 半分くらいは眠りの世界にいるのか、瞳には靄が掛かっている。
「サスケ君? 起きた?」
「………ねぇちゃん?」
「まだ半分くらいは寝てるわね…コレは」
 寝ぼけて、舌足らずな言葉に、瞬時に状況を判断する。
「……………」
「お−い、サスケ君?」
「…………ゆや姉ちゃんっ!?」
 ようやく状況が理解出来たらしい。
 顔を真っ赤にして、慌てふためいてサスケが起き上がった。パサリと置かれていた花 冠が落ちる。
「俺…寝てた?」
「うん。途中で寝ちゃったみたいね」
 フワリと微笑んで、落ちた花冠を再びサスケの頭に乗せる。
「花冠?」
「暇だったから作ってみたの。よく似合うよ」
「……何かそれ…あんまり嬉しくない」
 ポツリとサスケが呟いた。ゆやが不思議そうに首を傾げる。
 サスケからしてみれば自分は男であって、花冠を飾られて嬉しい事はないし、まして や似合うよと言われてしまうのは何とも言えない。相手がゆやじゃなければ刀を突きつけている所だ。そもそも、傍にいる相手がゆやじゃなければ寝たりもしないだろうが。
「一応、男だしさ……花冠が似合うと言われても……」
 飾られていた花冠に手を伸ばす。
「折角おそろいなのにな−。サスケ君、私とおそろいは嫌?」
 呟いた言葉の威力と効力を知っているのか、いないのか―――間違いなく後者だろう が。
 好きな相手にそう呟かれては、花冠を取る理由もなくなる。恐らく幸村や紅虎あたり にからかわれる事となるだろうが、それを踏まえても、ゆやとおそろいと言う言葉には 惹かれるものがある。
「別に………」
 むしろ嬉しい、と言えないのがサスケである。
「良かった。戦いには邪魔だけど、今はのんびりしてる時だしね」
 笑うゆやにつられるようにサスケも笑みを浮かべた。
 おそろいの花冠を飾っている二人を見た他の仲間達がゆやに作って欲しいとせがみだすのは、もうしばらく後の話。

サスゆや。
ほのぼの。忍びなのでそう簡単に寝たりはしないと思うんですが。