ぬくもり

 先急ぐ旅の途中とは言えども、人並みの体力しかないゆやを気遣ってか、陽が暮れる頃には止まる宿を探すのが常になっていた。そうして昨日も宿を探して止まった。その翌日が、コレだ。
 存在していた色彩は雪によって真っ白に塗りつぶされている。見渡す限りの白が目に明るく、そして痛い。例年、稀に見る大雪だった。
 そんな雪の中、先に進むわけにも、進む気もおきず、宿で足止めを食らっていた。
 大部屋を出たサスケは廊下を歩いていた。
 冷たく冷えた風が吹きぬけ、木材で出来た廊下は足から体温を奪っていくようだ。肩を竦め、足早に廊下を歩くサスケの視界の端に、白い塊が写った。雪なのは分かる。庭に目をやれば、嫌になる程、見れるのだから。ただ、庭ではなく、廊下に置いてあった事から茶色と白の、その色の差が目についた。
 適度な大きさに固められ、赤い南天の実と竹の葉が二つずつ、飾りとして埋め込まれている。所謂、雪ウサギと言う奴だ。
「……何で…こんなとこに?」
 雪が自然にそんな形になる訳はないのだから、誰かが作ったと言う事は分かる。おそらく、作ったであろう人物も。
「あら、サスケ君」
 かけられた声に振り向けば、目に飛び込むのは眩いばかりの金。そして、明るい碧色。
「姉ちゃん…何やってんだ?」
「見て分からない?」
「……分かるけど」
 ゆやの手には廊下に置かれている物と同じ――否、少々、他より大きい雪ウサギ。それを丁寧に廊下の雪ウサギ軍の中に加えて、ゆやが笑んだ。
「これでよしっ」
「?」
 満足そうに笑むゆやだが、サスケには何がこれで良いのかが分からなくて首を傾げる。それに気付いたゆやが雪ウサギ達を指差した。
「ほら、皆の分、ちゃんとあるでしょ?」
「え……」
 並べられたウサギ達に視線を向ければ、確かに旅を共にする仲間分、雪ウサギの数がある。先程の大きなのがおそらくは梵天丸のだろう。ならば、端の方に置かれた一際小さなのがサスケだろうか。
「大きさもちょっと拘ってみました」
「あんまり嬉しくないよ、姉ちゃん」
 確かに、他の面子に比べて小さい事は認める。が、こうして実際、目に見える形でまで見せられたくはなかった。一応、気にはしているのだから。
「成長期なんだから、すぐ大きくなるよ、サスケ君」
「だと良いけど」
 呟いたサスケに、ゆやがフワリと笑みかけた。
「さ−って、そろそろ中に入ろうかしら。随分と冷え込んできた気がするし」
 縁側から上がろうとするゆやにサスケが手を差し伸べた。掴んだゆやの手は冷え切っていて冷たい。一体、どれだけ外に居たのか。
「姉ちゃん、どれくらい外いたんだ?」
「さぁ、覚えてないわ。でも結構居たと思うけど」
「手が冷たい」
「サスケ君の手は暖かいね」
「姉ちゃんが冷たすぎるんだよ」
 そう言って、ゆやの冷たい手を両手で包み込む。芯まで冷えた冷たい手に、自分の手の温もりが移るように。早く、暖かくなるように。
 冷たい風が吹く廊下。だけど、冷たさは感じなかった。感じるのはただ一つ。繋がる手の、その温もりだけ。

サスゆや。
ほのぼのに若干、糖度をプラス。