憧れと欲望にまつわるエトセトラ

「ルカ君、私今後ダイエットするから協力してね」
「どうしたの? 突然」
 あまりに唐突な宣言にルカがアンジュを見返した。見返された当の本人は至って真顔のままでルカを見る。
「今のままじゃダメだと思うの、私」
「イリアとエルのセリフなら気にしなくていいと思うけど……やっぱ気になるものなの?」
「もちろんよ」
 キッパリと即答するアンジュを見て、ルカが首を傾げる。
 自分は男であまり太い細いを気にしないタイプだからよくわからない話だ。太っていようが、痩せていようが、当人である事に間違いはないと思うのだが。
 やはりと言うか、何と言うか。太る痩せるは女性にとっては大問題のようだ。
「ふーん……女の子は大変なんだね。僕は男だからあんまり気にしないからなぁ。太いのとか」
「あら、男の人でも気にする人は気にするものよ」
「まぁ、気にする人は気にするだろうけど」
 つい先ほど記述した通り、ルカ自身は気にしないし、少なくともスハーダとリカルドも気にしないのではなかろうか。と言うか、あまり太い細いを気にしないで欲しい。だからと言って、旅の途中で知り合った男の人達がそうであって欲しい訳でもない。
「うーん、ルカ君には理解しにくいかぁ」
「そうだね、どちらかと言うと」
「じゃあ、ルカ君はスパーダ君とリカルドさんのどっちの体型に憧れる?」
「え」
 今までの話の流れを無視した問い掛けにルカがキョトンとする。太る痩せるの話から何故、二人の体格の話に移り変わったのだろうか。
 それはさておき、スハーダとリカルド、どちらに憧れるかと問われたらリカルドだろう。
 傭兵をやっているだけあってリカルドの体格はいい。スラリと伸びた背丈に程よくついた筋肉、体力も力もある。リカルドには及ばないがスハーダも年相応の体格で力もあって羨ましい。
 が、二人のどちらかと言えばやはり、リカルドだ。 小柄で非力、体力なしなインドア派のルカとは対極にあって憧れる。
「やっぱり、リカルドかな。背も大きいし体格もいいし……」
「でしょう? 人はね、現状に満足しないものなのよ。自分にない物を際限なく求め、欲するものなの。まぁ、要は無い物ねだりなんだけどね」
 小さく苦笑しつつ語るアンジュの言葉には何故だか、妙な説得力がある。
「ルカ君は小柄だからリカルドさんに憧れるでしょう? 私はもう少し全体的に細い体に憧れる。私が痩せたいと思う気持ちわかった?」
 ルカが苦笑を浮かべる。
 なるほど、自分がアスラに憧れたのと同じ気持ちか。
 確かに無い物ねだりだ。欲しい、なりたいと願っても一朝一夕ではなれないし手に入らない。手に入ったとしてもすぐに次を欲して際限はない。永久に満たされる事のない憧れ。
「気持ちは理解したけど……じゃあ、アンジュは今後食べるのを控えるんだね?」
「それなのよね、問題は」
 アンジュが眉間にシワを寄せる。
「でも、今の量だと痩せるの無理だと思う」
「十分に理解してるわ」
「じゃあ……」
「でも、減らしたくないの」
「……アンジュ」
 ガックリとルカが肩を落とす。
 痩せたいが量を減らしたくないでは意味がない。太らないかも知れないが痩せもしないだろう。
「だから、ルカ君に協力して欲しいんじゃない」
「アンジュ、まずは食べるのを諦めるか、ダイエットを諦めるか選ぶのが先だよ」
「そうなんだけどね〜」
「あぁ、もう一つ。食べた倍動くとか」
 ポンと手を打って、ルカがアンジュに提案する。
「それでお腹減って食べそうよね」
 ニッコリと笑うアンジェの姿に、盛大な溜め息を吐いた。
 おそらく、アンジュに何を言っても意味が無い事を今、悟ってしまった。
 痩せたい、でも食べたい。これでは堂々巡りだ。食べて痩せるだなんて、それこそアンジュの言葉ではないが無いものねだりだ。
「無いものねだりだよ、アンジュ」
「……やっぱり?」
((女の子ってわかんないなぁ……))
 何処か疲れた溜め息交じりで、ルカがアンジュの問いに頷く。ほんの数十分程度の会話で何だか、どっと疲れた気分だ。
 なにはともあれ、今日も一行は平和だ。

テイルズ オブ イノセンス:ルカ+アンジュ。
多分、この後アンジュはダイエットしてません(笑)