手のひらの温もりと幸せと

 ユリスを倒し、聖獣達がこの世界を去り、出来てしまった溝を埋めるべく頑張り、ようやく平穏で変わりない日々が戻ったのは一年も経った頃だった。
「陛下」
 カツカツ、と。
 靴音を響かせながら、女王の間に姿を現したのは幼い頃からの付き合いのある幼馴染と言っても過言ではない青年で。
 フワリ、と口元に笑みが浮かぶ。
「どうかしましたか? ミルハウスト」
「えぇ。本日の分の書類は終わりましたか?」
 側近で乳母でもあったジルバが実は黒幕で、戦いの最中に亡くなって。代わりに側近となったのは将軍をも務めるこの青年で。
 何時もと変わらない業務上のセリフに、一抹の落胆を覚えながらも、表面上は何事もなかったように振舞う。
「えぇ、ここに」
 そこそこの厚さを持つ書類の束を渡せば、その場でパラパラとチェックを入れる。可笑しな点がない事だけを確認して、束を更に後ろに控えていたワルトゥに手渡した。
「では、本日の仕事は終わりです。出かけますよ、アガ−テ」
「………え?」
 呼ばれた名前と告げられた言葉を理解するのには数秒を要して。
 “陛下”ではなく“アガ−テ”と呼ばれたのは、仕事が終わった事を現していて。常にない珍しいことに澄んだ色の瞳を真ん丸くする。
「どうかしましたか?」
「え……えぇ……出かけると言いましたか?」
「言いましたよ」
 問えば、アッサリとした答えがミルハウストから返って来る。
「どうか…したんですか? 貴方がそんな事を言うのは珍しい」
「最近、仕事詰めだったでしょう? 休息も必要ですよ、貴方には」
「で…でも……ミルハウストは私以上の仕事をこなしているんですもの。私がこれくらいで根を上げ……」
 言いかけた言葉を、ミルハウストが指で遮った。
 見つめてくる瞳には真摯な光が宿っている。
「私は男で将軍位に居る人間です。貴方とは基礎体力からして違う。私と同じ量こなそうとしたら、倒れます」
「そ……それはそうかも知れませんけれども…………でも私だけ休息を頂くのは…」
「御心配なく。皆、順番に休息を取る事になっています」
「で、ですが……!」
「私と一緒に休憩するのは御嫌ですか?」
 凛とした眼差しと視線がぶつかる。
 真っ向からそう問われてしまえば、アガ−テに反論などある訳もなくて。
 伸ばされた手に、自分の手を重ねる。と同時にグイッと引っ張られて。
「さ、行きましょうか」
 繋がれた手もそのままに、女王の間を二人連れ添って、後にする。

 繋がれた手のひらの温もりと一緒に過ごせるこの時間が何よりも幸せ。

Tales of Rebrth:ミルアガ
ちょっとパラレル。二人で共に国を守っていく姿が見たかったです。