歪んだ愛情表現

 辺りは薄暗い闇に包まれていた。
 水場が近いのだろうか。ピチャンと水が滴る音が時折聞こえ、ヒンヤリと冷たい空気が流れる。
 聞こえる物音と言えば、水の滴る音と焚き火が爆ぜる音。そして、仲間である少年が離す声だけだった。
「それでねー」
 明るい赤オレンジの髪をした少年――マオは明らかに楽しそうな表情をしている。その真正面に座っている栗色の髪の少女――アニーはその逆に恐々と言った表情だ。そこから少し離れた場所で火を囲んでいる他の面々はそれを素知らぬ顔して見ている。
「………」
「でね――」
 恐々と言った表情はどんどんと泣き顔に変わって行く。目尻にはしっかりと浮かぶ涙が確認出来る。
「もー、いい加減にして!」
「あれ? アニー、怖いの?」
「怖くないわよ!」
「じゃ、別に構わないよネ♪」
 そのマオの言葉を聞いて、ハッとアニーは自分の失言に気付くが、時既に遅し。マオは嬉々として続きを話し始める。
「……良いのか?」
「何がだ?」
 離れた所で火を囲んでいたヴェイグが隣に座るユージーンに話しかける。不思議そうに尋ね返すユージーンにヴェイグとヒルダが溜め息を吐いた。
「だから、どう見たってアニーは怖い話が苦手でしょう? マオは楽しそうに話してるけど…今にも泣き出すわよ、アレ」
「む……」
「迷いの森を抜ける時から始めたんだったな…」
「結構、前から話してんだな……誰も止めなかったのかー?」
「俺とユージーンだぞ。止めると思うか?」
「……あんまし」
 時期的にはほんの少し前の事を思い出す。
 あれ以後、時折、マオはアニーに怖い話を聞かせている。しかも、暗い所にいる時に限って――まぁ、明るい所で話しても怖くはないだろうが。
「……マオ」
「何? ヴェイグ」
「そろそろ止めてやれ。泣きそうだぞ」
「そうだネ」
 溜め息を吐きつつ、ヴェイグが口を開いた。一度、チラッとアニーに視線を送り、マオが頷いた。
 態度的には、何を今更、と言ったところだ。
「…………」
 何か言いたそうなヴェイグにマオが笑ってみせる。
「だって良く言うじゃない?」
「………何をだ」
 問いかけたヴェイグは後々、後悔したとか。
「好きな子ほど苛めたいって」
「……」
「……で、言いたかったのは、それだけ?」
「あ……あぁ…」
「じゃあ、僕、戻るから」
 ニッコリと笑いかけて、マオはアニーの元へと戻っていく。
「………ユージーン」
「……育て方を間違えたか?」
「間違いなく間違ってるわよ。あれは問題よ」
 ヴェイグ達の深いため息を他所に、マオの怖い話語りは延々と続いたそうな。

Tales of Rebirth:マオアニ。
マオアニと言い張る。微妙にマオが腹黒い気がしますが、気の所為です。