走る動きに合わせて、長いみつあみが上下に揺れた。
ピョコピョコと走り去っていくその姿を眺めながら、リョーマが小さく笑いを零した。
何事にも一生懸命なかの少女と知り合い、練習を見るようになって早数ヶ月。誰よりも一人前なやる気だけは認めるけれども、実力の方はまだまだ。数ヶ月前よりかは上達しているが、その上達具合は亀の歩みよりも遅い。
「どうやったらあんなに上達出来ないんだか」
ある意味、不思議である。
誰だって数ヶ月、真面目に練習すればそこそこまで上達出来るものだ。それなのに、誰よりも練習しても少女は上達しない。
違う意味で、一種の才能だと思う。
「向いてないんじゃないかな、竜崎、テニスに」
ちょっと離れた場所に設置された自動販売機でジュースを買う少女のうしろ姿を眺めながらリョーマが呟く。
買い終わったのか、手に二本の缶を持った少女がこちらに戻り始めているのが見えた。こけそうだな、と何気なしに思った瞬間。
ビタンッ、ガンッ。
派手な音が響いて、ものの見事に少女が、バランスを崩してこけた。後から聞こえたガンッと言う音は買ったジュースがアスファルトに衝突した音か。
思った通りの行動に、リョーマが笑いだす。
「何やってんの、竜崎」
座っていた場所を立って、こけてしまった少女の下へと歩み寄る。恥ずかしそうに顔を染める少女はアタフタと慌てる。
「リョ……リョーマ君」
「派手にこけたね」
「うぅ……」
「ある意味、才能だよね。何で何もないトコでこけれるかな」
リョーマの言葉に返す言葉もなく、桜乃は小さく呻き声を上げるだけだ。
「ほら」
「?」
顔を真っ赤にして俯いてしまった少女に、リョーマが手を伸ばした。不思議そうな表情を浮かべた後、少女が気付いたように買ったジュースを手に乗せた。
この行動には、さすがのリョーマも唖然とする。
「竜崎? 別にジュースを乗せろって意味じゃなかったんだけど?」
「え? 違ったの?」
「立つのに手を貸そうと思っただけなんだけど」
「!」
盛大な勘違いに、これ以上無いくらいに桜乃が顔を真っ赤に染める。
「……ぷっ……」
一度噴き出してしまうと、笑いを治める事は無理だった。
リョーマの遠慮の無い楽しそうな笑い声が響く。対する桜乃は真っ赤にした顔を隠すように俯く。
「あー、面白い」
「そんなに笑わなくたって……」
「さて、と。じゃあ、改めて、お手をどうぞ? お姫様」
「!!」
もう一度、差し出された手を、今度は自分の手でとった。