黒い太陽がギラギラと地表へと照りつける。乾いた風邪が砂埃を伴って吹き荒れ、頭まで覆ったマントを揺らして通り過ぎた。
寂れて閑散とした街に人の気配はなく、あるのはただ妙にリアリティ溢れる石像ばかり。
楽園と呼ぶには些か語弊があるだろうこの地が、皆が夢見て、求め争った場所なのだろうかと一人、首を傾げる。
黒く不気味な太陽、寂れた街、石像……生を終ぞ感じられないこの場所よりも、あの世界の方が幾らかマシではないだろうか。例え、血と硝煙に塗れた血生臭い場所だったとしても。
あの場所には仲間がおり、ついてきてくれる部下がいた。遥かなる天上に座す楽園を夢見て日夜争っていた他のトライブも。けれど、あの場所へ帰る術をサーフは知らない。
あの世界が何処にあったのか。
一体どうなってしまったのか。
それらを知る術もサーフにはない。
覚えているのは崩壊する世界と、世界を染めんとばかりに輝く白い光。
音を立てて崩れゆく天を突く塔から溢れるまばゆいばかりの光は、世界を、サーフ達を包み込み、そこで意識は途切れている。
次に目覚めた時は既にこの地におり、どうやってこの地に来たのか。それすら覚えがない。ただ、仲間達と共に駆け抜けた世界とは違うこの地が何処かと考えて、真っ先に思い至った場所はたった一つ――ニルヴァーナ。
ジャンクヤードの覇者となったトライブにだけ開かれると言われていた楽園への扉。あの白い光こそ、扉が開かれた証なのだろうか。
記憶が途切れる直前までのジャンクヤードは崩れていた。物凄い勢いで進む崩壊はあっと言う間に塔へと辿りつき、塔の最上階にいた自分達は崩壊に巻き込まれた筈だ。
全てのエリアの中心に位置する塔が崩れたと言う事は、ジャンクヤードはもうないのだろうか。
「……」
小さく頭を振って、意識を切り替える。
考えてもキリはないし、意味もない。どれだけ考えた所で、答えを合わせる場があるかどうかすら怪しい所だ。
今、サーフに出来る事はたった一つ――進む事だけだ。
散り散りになった仲間達と合流し、全てを明らかにする為の第一歩を歩み出す事、ただそれだけ。
歩みを止めていた足を前へと出す。
行く宛ても、行く末も知らぬまま、ただ前へと進み始めた。
まどろみの殻は破られた。
夢は終わりの鐘を告げ、訪れる筈のなかった現実が夢を浸食しやってきた。
采配者の思うがままに動かされていた人形達はその糸を切り捨て、個々で動く事を選び取った。
人形達の行く先――そこに何が待つのか。それはまだ、誰も知らぬ。
そして、彼らが世界と己の真実を知るのはまだ少し先の話。