春風と花びら


「わぁ……」

 頭上を見上げ、みちるが感嘆の声を漏らした。
 見渡す限りの淡い桃色と、その合間から見える空色のコントラストが綺麗で美しい。

「凄く綺麗ですね、栄先輩!!」

 幸せを称えた表情を顔一杯に浮かべて、みちるが栄を振り返った。ほんの少しだけ伸びた髪が動きに合わせてフワリと宙に舞った。

「それだけ嬉しそうな表情されると、連れて来た甲斐があったね」

 クスッと小さく、栄が口端に笑みを浮かべる。

「…そんなに嬉しそうな顔、してました?」
「うん。してたよ」
「………」
「別に悪い事じゃないんだよ? それに……」
「それに?」

 言葉を切った栄に、みちるが首を傾げつつ、尋ねた。
 みちるに一度視線を向けて、そのまま視線を空ヘと上げる。みちるもつられるように、空を見上げた。




「喜んでる、とても―――――――」




 ザァッと。強い春疾風が木々を揺らし、淡い色合いの花びらを空へと攫っていく。
 空を舞う花びらを目で追ってからみちるは、未だ風に揺れる木々へと視線を落とした。


 “喜んでる”


 誰が?
 勿論、今ここに咲き乱れる桜の木々が、だ。
 栄の言葉を反芻して、今まで以上に嬉しそうに、幸せそうに、みちるが微笑んだ。

「そう…ですか」
「うん」
「来て…良かったです」

 みちるの言葉を聞きながら、栄も穏やかに微笑う。
 もう一度吹いた強い風に、桜の花びらが散る。ヒラヒラ、ヒラヒラと風に舞う桜吹雪はとても綺麗で。

「本当に…綺麗ですね」
「だね」

 顔を見合わせて笑い、手をつないで、桜吹雪の中を歩きだした。


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 Fun Fun 工房:栄みち。
 物語終了から少々、未来の話。
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