月下
月の光だけが輝く、薄暗い藍色の闇の中、仄かな灯が灯った。
まるで蛍のような小さな丸い光は一つ、また一つとその数を増やしていく。
「わ−、綺麗」
フワリフワリと辺りを漂う光に目をやりつつ、姫乃が感嘆の声を上げる。
藍色に映えて光る淡い黄色の光。
沢山の光が浮かぶその光景は幻想的でとても綺麗で――この場にいるのが、光のリ−フェナイツだからこそ出来る芸当。
「それは良かった。それで? 満足したのかい? 姫乃君」
「うん。満足」
蛍の言葉に、姫乃が綺麗に笑った。余りにも嬉しそうに笑う顔に、蛍も小さく口元に笑みを浮かべる。
「で、何でまたこんな深夜にこんな事を?」
「え−…っと……言わなきゃ駄目?」
「…無理矢理深夜につき合わせておいて、黙秘かい? 姫乃君」
「う……」
「で、理由は?」
間をいれずに訪ねてくる蛍の態度にごまかしは無理だと判断したのか、姫乃が小さく溜め息を吐いた。
そもそも、リ−フェナイツの参謀役を誤魔化そうと言う方が間違っている。
「あのね、今年の夏……忙しくって、蛍見損ねちゃったの……」
「……それで?」
「ど−しても見たくって………それで……あの……蛍君、ごめん」
「そんな事だろうとは思ったが」
勢い良く謝る姫乃を見やって、蛍が溜め息を吐いた。
怒られるとばかり思っていた姫乃は、蛍の思いがけない言葉に顔を上げた。
「怒らないの?」
「別に。可愛い我が儘程度で怒る必要はないだろう。それとも。怒って欲しいのか?」
「いいえ、欲しくないです」
問いかけられた言葉に、即座に首を振る。
ハッキリ言って、蛍に怒られるくらいなら、颯と丸一日ケンカしていた方が遙かにマシと言う物だ。
「彼女のお願いを聞かないほど、薄情者のつもりはないが」
「えと……」
「まぁ、今回は特別だな」
「……ありがと、蛍君」
フワリ、と姫乃が微笑んだ。
月の柔らかい光と、淡い黄色い光が、辺りを優しく照らし出していた。
post script
プリーティア:蛍姫。
実は割と書き易かったり。