うたた寝 コックリ、コックリと。 光を集めたような金の髪の青年が、船を漕いでいた。 専用の場と化したソファの備え付けのテ−ブルの上には、書類の山が二つ。処理済の書類の山と未処理の書類の山―――未処理の山の方が、高い。 青年が遅くまで仕事をしている事を、子供は知っている。 夜遅くまで消えない灯。場合によっては夜通しで、灯が点いている事を知っている。 そして、それが誰の為なのかも、知っている。 だから起こすつもりは全くと言って良いほどないけれど。 昼間は暖かいが、朝夕はまだ寒い季節。窓を全開にした状態では多少なりとも寒いだろう。 そう思った子供は、読みかけの巻物を巻き取って、片付けて、立ち上がる。 持ち出したのは、触り心地が柔らかい薄手の毛布。 フワリ。 宙に舞った毛布はそのまま青年の肩へ。 起こさないように、気付かせないように細心の注意を払ってかけてやる。 そしてそのまま、自分も毛布に包まって、肩口に頭を預けて、目を閉じる。程なくして、子供からスウスウと穏やかな寝息が経ち始めた。 スウスウと穏やかに傍で寝る子供に視線を向けて、青年は口元に柔らかく穏やかな、慈愛に満ちた笑みを浮かべた。 本当は毛布を取りに行った時点で起きてはいたのだけれども、自分を思っての行動が嬉しくて。 寝たふりをしていたのだ。 自分のと同じ金の色彩を持つ髪を軽く撫でて、青年も瞼を閉じた。 疲れていたのも事実で、そう間を置く事無く、青年からも穏やかな寝息が経ち始めた。 緩やかに吹いた風が、二人の金の髪を揺らした。 +++ 四代目+ナルト。 |
熟睡 日番谷 冬獅郎は、聡い。 近付いてくる気配にすごく敏感だ。例え瞼を閉じて寝ていたとしても、近付けばすぐさま閉じていた目を開く。 だからこそ、珍しいと、桃は思う。 文字通り、眼前まで近寄っても、日番谷が目を開けない事は。それどころか、寝息まで立てている始末。 これは俗に言う熟睡状態だ。 「ふわ−……珍しいなぁ、日番谷君が熟睡してる…」 ポツリと呟いて、すぐ隣に腰を下ろす。 偶々、用があって通りかかった場所に、感じなれた霊圧を発見したのは偶然だった。 霊圧元を探せば、木陰に腰を下ろして、目を閉じている日番谷が目に入って。 きっと目を開けるだろうなぁ…と思って近付けば、目を開ける事無く、眠り続けている。 本当に、珍しい。 明日は雨か、それとも槍が降るか…失礼な事を考えるほどには珍しい光景だと思う。 知り合ってから長いが、日番谷は何時も、桃が近付くと起きていた。勿論、他の誰が近付いても。 それはある種、動物が警戒しているのにも似ていて。 あまり信用も信頼もされてないのだと思うと、寂しかった。 それでも最近は、近付いても寝ている事が多かった――と、言っても一度目を開けて確認してからだが。 こんな風に、傍に寄っても目も開けない、熟睡している姿を見れて、嬉しかった。 「……無防備な日番谷君が見れて、嬉しい…な……」 呟いて、日番谷の髪に触れる。 そして願わくば、何時までも日番谷にとって、安心して眠れる存在であるように。 日番谷の髪に口付けて、桃も目を閉じた。 +++ 日雛。 |
二度寝 ジュ−、ジュ−と。 台所から、良い匂いと良い音が漂っていた。 フライパンの上で踊るベ−コンはカリカリで香ばしい匂いがする。その隣、別のフライパンの上では目玉焼きに火が通っている。 用意された皿の上には付け合せ用のレタスが数枚とプチトマト。 柔らかいパンはパン焼き機に入れれば大丈夫のように用意されている。 美味しそうに出来上がっていく朝食を見て、四代目火影が満足そうに一つ、頷いた。 「うん、OK」 呟いて、そのまま台所を後にする。 向かう先は二階。同じ金の髪と青の瞳を持つ最愛の息子の元。間違いなく今も布団の中で寝入っている事だろう。 起こしてから降りれば、玉子がちょうど良い具合だろう、と考えて、二階へ続く階段を登っていく。 階段を登って突き当たりにある部屋の扉を開ければ、予想通り、未だナルトは寝ていた。 下忍とは言えども、忍者は忍者。気配も何も消してない人物の接近を感じ取れないのはどうかとも思うが。 「ナルト君? 朝だよ、起きて」 布団の中で丸々子供に声をかけながら、布団を剥ぐ。 今まで包んでいた温もりがなくなった事でフッと目を覚ました子供が最初に見たのは、同じ色彩を持つ父親。 ボ−ッとして虚ろな瞳で、それでもホワリと笑みを浮かべる。 「おはよ−だってば、と−さん」 「うん、おはよう。朝食の準備の続きしてるから、早く降りておいでね」 「わかったってばよ−」 寝ぼけた声でしっかりと返事を返すナルトを見て、ナルトの部屋を後にした。 上手い具合に焼けた目玉焼きを、レタスとプチトマトの乗った皿に乗せて、カリカリに焼けたベ−コンも乗せて、焼かれたパンはこんがりと狐色。涼しげな硝子のコップの中には牛乳。 完全に朝食の準備を終えてもなお、ナルトは降りて来ない。 「やっぱりね」 フゥッと一つ、溜め息を落として、注連縄が立ち上がった。 恐らくはあのまま、倒れこんで寝入ったのだろう。そもそもナルトが一発で起きてきた例は、ない。 本当に、忍者としての将来に不安を抱いてしまうが、それを言って直るなら苦労はしない。 先ほどと同じようにナルトの部屋まで辿り着けば、ナルトはベットにうつ伏せてスヤスヤと寝入っている。 「………」 ジ−ッと眺めていても、ナルトが起きる気配はない。 寄りかかっていた入り口から離れて再び、ナルトの傍に近寄る。 「ナルト君っ!」 先ほどよりかは大きな声でナルトの名を呼び、肩を揺する。 パチッと閉じられていた瞼が開かれて、青い瞳が覗く。そして、父親を認めて慌てた。 「お……俺ってば寝てた?」 「うん。それはもう気持ち良さそうに」 「……ごめんなさい」 「ま、ナルト君の二度寝は今に始まった事じゃないからねぇ…さ、朝御飯冷めるよ」 コクリと頷いて、今度こそはちゃんとベットから降りたナルトを先に下りるよう促して、注連縄もその後に続いた。 変わらないうずまき家の朝の光景。 +++ 四代目+ナルト。 |
お昼寝 ベランダから差し込む光が一番あたる暖かい窓際のフロ−リングの床。其処で麻衣はスヤスヤと夢の世界を漂っていた。 それを見て溜め息を吐いたのは、黒の髪と瞳を持つ子供で。 常の事、と言い切ってしまえばそれまでな日常に小さく苦笑をする。 「お母さん」 ある程度ト−ンを落として声をかけて、肩を揺らして見るも、母親である麻衣が起きる気配は全くと言って良いほどない。 「困ったなぁ……」 肩を揺らすのを止め、困った風の表情を浮かべる。 まだまだ昼間で暖かいが、出かけた父親が何時帰ってくるか、分かったものではない。 自分なら問題はないが、父親が帰ってくると少々訳が違う。恐らく――否、間違いなく、どんな手を使ってでも起こす事だろう。 そして無理矢理起こされた母親は、父親に喰ってかかることだろう。少年からしてみれば、それは有り難くない―むしろ、遠慮願いたい事態だ。 気持ち良さそうに眠っているのを起こすのは忍びないが、その後に起こりそうな事を回避するためには止むを得ない。 「お母さん、お父さんが帰ってくるよ」 先程よりも多少強く肩を揺らす。それに付随するように、声のト−ンも少々大きめにする。 効果があったのかどうかは分からないが、言葉になっていない事をボソボソと口の中で呟いて、フッと閉じられていた瞼を持ち上げた。 隠れていた瞳が、ジィッと見返してくる。 「…………………………仁?」 「お母さん、起きた?」 見返してくる瞳は何処までも虚ろで、まだ頭の半分以上が眠っているだろう事は簡単に見て取れる。 学生と言っても通りそうな母親を見返して、少年がゆったりとしたテンポで尋ね返す。 「お父さん、そろそろ帰ってくるんじゃない?」 「………今何時?」 「もう2時だよ」 「じゃあ、大丈夫」 一体、何が大丈夫なのか。 「だからね? 仁も一緒に寝よう?」 言葉と共に、フワリと下方に引っ張られる。一度バランスを崩してしまえば、後は重力に従うだけで。 あっと言う間に、仁は床の上―――麻衣の腕の中、だ。 「おやすみ〜」 短くそう言うと、元々夢と現を行き来していた麻衣の意識は深いところに落ち込んで、後に残されたのは規則正しい寝息と、困ったように抱かれたままの仁のみ。 父親が帰って来た時に、偉く面倒な事になりそうだが、今はこの状態に身を任せる事を早々に決めてしまうと、仁も意識を手放した。 ―――帰ってきた父親と息子の間でひと悶着が起きるのは、数時間後の話。 +++ 麻衣+仁。 |
ごろ寝 誰も居なかった。 一緒に旅をする戦友達は何時も通り、遊郭へ出向いたり、フラリと出て行ったりで、姿はない。 一応、二部屋借りた宿に居るのは、金糸の髪を持つ一行の紅一点であるゆやと、そのゆやの護衛を任されていたりする少年忍者のサスケの二人。 陽の当たる縁側でのんびりと、ゆやは愛用の短銃を、サスケは刀の手入れをしている。 「…………」 「……」 二人の間に会話はない。と言うか、にこやかに笑っているゆやの雰囲気は穏やかじゃなく、気軽に声をかけにくいものがある。 理由は明白。例によって例の如く、ゆやから財布を掠めていった面々にある。日々溜め込んでいた鬱憤が等々爆発したらしい。 「……」 「…ゆや姉ちゃん」 おそるおそる声をかければ、フワリと笑った表情でゆやが小首を傾げた。 「どうしたの?」 「…良い天気だしさ……どっか散歩でも……」 「良いわよ。どうせだから見晴らしの良いトコ行きたいわね」 「………怒ってないの?」 「怒ってるわよ、あいつ等に」 ニッコリと笑う笑顔の裏に真っ黒な殺意が見えた事を、あえて気の所為だと思いたい。 それが分かったのか、ゆやがクスと笑った。 「さ、散歩行こうか。ついでに何処かでお団子とか買おうか」 「うん」 立ち上がって、ゆやに手を伸ばす。その手を取ってゆやが立ち上がった。 宿の外は良い天気で。 通りに面した店の一つで適度にお団子を購入して、適当に歩いて辿り着いたのは、宿場町の外れにある少し小高い丘。 宿場町が一望出来て、景色が良い。 「うわ〜、景色良いね」 「……あ、幸村達」 見知った気配の方に目をやれば確かに見知った面々が何やら楽しそうにしているのが小さく見えた。 「さ、お団子食べようか? サスケ君」 「うん」 買ったお団子を広げて、その場に腰を下ろす。 「あ−、気持ち良い〜」 大きく伸びをしながら、ゆやがゴロリと横になる。 「……姉ちゃん」 「サスケ君も転がれば? 気持ち良いよ」 言うだけ言って目を閉じてしまったゆやを見やってから、サスケもその場に転がる。 サヤサヤと、風を受けて草が揺れる。吹く風は花や緑の匂いを運んで、薫る。 ふと気がつけば、隣に転がるゆやからは寝入った気配がした。 どうしようかと考えたが、とりわけ急ぐ理由も必要もない。そう判断して、サスケも静かに目を閉じた。 +++ サスゆや。 |