贈り物−それに至る過程−


 目を奪われた。
 それが一番、的確な表現だっただろう。


 朱塗りの時に丁寧に彫られた桜の意匠。その桜には金塗りが施してあり、華奢で華やかなその簪に視線を引き付けられる。
 その刹那、思い出したのは柔らかな花のような笑みを浮かべる新選組預かりの少女だったのは、如何なる理由からか。恐らくはつい先達て見たばかりの少女の芸者姿が影響しているのは確かだろう。
 見慣れた袴姿ではなく、芸者と呼ぶに相応しい豪奢な着物、結いあげられた射干玉色の髪を彩る簪。薄く施された化粧が、少女の元来の愛らしさを引き立たせていた。
 着飾ったその姿は女にしか見えないもので、慣れぬ恰好に恥じらうその姿はやけに艶やか。
 元々、男として見るには無理のある男装ではあったが、化粧っ気のない事と所謂色気のなさからどうにか誤魔化されていた少女の性別をはっきりと見せつける姿に、柄にもなく心臓が脈打ち、上手く言葉が紡げず、姿を目にするのも一苦労だった事を覚えている。
 あれはおそらく、緊張していたのだろう。
 常では見られない少女の姿に。そして、その姿に一つの確信を得たのもまた確か。
 幾ら男装し、共にあろうとも、少女は少女でしかない。決して、同じではない。
 今は理由あって新選組に――形だけとは言え――席を置いているが、やがて離れる時が来るだろう。そして、それは遠い先の話ではない。近い将来、少女を手放す事になるのだろう。その理由が何であるかまでは定かではないが。
 その何時かが訪れ、男装から本来の姿へと戻る際の餞になればいいとひっそり思い、その簪を手に取る。
 安価とは言い難い値に千鶴が躊躇うかも知れないと思いつつも、店主へと簪の代金を支払う。
 刀を握り肉刺の出来た無骨な手にすっぽりと収まってしまう華奢な装飾具。
 斎藤の手には酷く不釣り合いなそれは、少女の黒髪にはよく似合うだろう。
 買い求めたばかりの簪を大事そうに懐へと仕舞い込む。ただ、少女が喜んでくれれば良いと祈りながら。
 その気持ちの発端が何であるかなど、気付く事も――気にする事もなく。


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