雰囲気的な10のお題 穏

夕陽と下り道

 真上を通り過ぎ、西に傾いた太陽が毒々しいくらいに赤い光で世界を染め上げていた。
「リョーマ君?」
 掛かった声に振り向けば、長い二本のみつあみがチャームポイントとも言える少女――桜乃が、赤い光に染められて立っている。
 手に抱えるのはクマのワンポイントがあるカバーに包まれたテニスラケット。肩には大きめの鞄。何処かでテニスの練習をしていました、と言わんばかりの格好を見れば、練習していたのは明白だろう。
「今、練習帰り? 竜崎」
「あ、うん。そうなの」
 ほわりと微笑んで、桜乃が小走りに駆け寄ってくる。
 桜乃が動く度に、長いみつあみがピョコピョコと上下に揺れる。その様が面白くて、口元に手を当てて、小さく肩を震わす。
「リョ……リョーマ君? どうかしたの?」
「……いや、なんでもないよ」
 何でもないと言ってはいるが、未だリョーマは肩を震わして、くつくつと笑っている。怪訝そうに桜乃が首を傾げた。
「リョーマ君、部活の帰りなの?」
「まぁね」
「そっか。もうすぐ全国大会だもんね」
「どんな強い奴が出てくるか楽しみだよ」
キッパリと言い切ったリョーマの顔は、勝つと言う自信に満ち溢れていて、何処か眩しい。
「全国大会、頑張ってね」
「勿論」
 桜乃の言葉に、リョーマが常と同じ不適な笑みを浮かべた。