雰囲気的な10のお題 穏
奏でる旋律
何処までも澄んだ歌声が、礼拝堂内部に響き渡った。
歌われるのは譜歌。ユリアがローレライとの契約の証として歌った力ある歌。今は亡き導師・イオンの為だけに、ティアが歌う鎮魂歌。
「やっぱり上手いですわね、ティア」
「そうだな」
歌い手の邪魔をしないよう、極力抑えた声でナタリアとガイがひっそりと言葉を交わす。
ティアの体を蝕む障気を引き受け、光となって返っていったイオン。それはつい先日の話で、彼らに――特にアニスの――胸に重く圧し掛かっている。
もっと早くザレッホ火山についていれば、助かったかも知れない。そもそもモースを早々に抑えておくべきだったのかも知れない。後悔ばかりが押し寄せてくる。だけど、済んだ過去を振り返って悔やんでも何にもならない。全ては仮定の域を出ない事だ。
過去を悔やむのではなく、亡くなった者が安心出来るように今やれる精一杯をする事こそが、イオンに対しての彼らなりの誓いで決意だろう。
ティアの歌声が途切れた。その瞬間、パァッと辺りが白い光に包まれる。
((…………ありがとう))
輝く白い光の中、ポツリと聞こえてきたその声は聞き間違える筈もない相手。慰霊の対象たるイオンの声だ。
「……っ。……イオン……様っ」
常と変わらない優しく柔らかいその声に、アニスが言葉に詰まった。そのまますぐ傍に立っていたルークにしがみつく。しがみついてきたアニスの背中に手を回してポンポンと一定のリズムで叩くルークの眦(まなじり)にも、涙が光った。
「ティア」
「何? ルーク」
イオンの声が聞こえた慰霊祭も終わった後、ルークがティアに声をかけた。振り返ってティアが小さく首を傾げた。
「あのさ……譜歌って俺でも歌えるかな?」
ルークの口から飛び出してきた意外な言葉に、ティアが目を丸くする。
「歌えると思うけど……どうしたの、急に?」 「俺も……イオンの為に歌ってやりたいんだ。…………歌、下手だけど」
「……上手い下手とかじゃないわ。相手を思って歌っているか、いないかよ。ルークが歌ったら、イオン様、きっと喜ぶわ」
「……そうかな」
「そうよ」
キッパリと言い切って、ティアが微笑んだ。
初めてあったあの時から、ルークを優しいと言っていた幼い風貌の少年。その少年が、ルークに歌ってもらって喜ばない筈がない。
「じゃあ、簡単な第一譜歌教えるわね。全部通しては時間がかかるから、また今度ね」
「うん」
ルークに分かりやすく、一文字一文字区切ってティアが歌っていく。ティアが奏でる音程を辿って、たどたどしくルークが譜歌を奏でる。何度もそれを繰り返す内にたどたどしさが消えて、ティアには叶わないが綺麗な旋律となる。
「ルークは覚えるのが早いわ」
「そうなのか?」
「えぇ、早いわ」
「そっか……」
褒められて照れくさそうに、ルークが微笑った。ティアもフワリと口元に笑みを浮かべる。
「さ、イオン様の為に歌ってあげて?」
「……うん」
スゥと息を吸い込んで、静かに声を紡ぎ始める。ティアよりも低い声が、ティアと同じ歌を奏でる。ルークが奏でる歌に気が付いた仲間達がその動きを止めて、静かに歌に聞いて、祈った。
今は亡き彼の為に奏でる旋律が、晴れ渡った空に響いた。
歌われるのは譜歌。ユリアがローレライとの契約の証として歌った力ある歌。今は亡き導師・イオンの為だけに、ティアが歌う鎮魂歌。
「やっぱり上手いですわね、ティア」
「そうだな」
歌い手の邪魔をしないよう、極力抑えた声でナタリアとガイがひっそりと言葉を交わす。
ティアの体を蝕む障気を引き受け、光となって返っていったイオン。それはつい先日の話で、彼らに――特にアニスの――胸に重く圧し掛かっている。
もっと早くザレッホ火山についていれば、助かったかも知れない。そもそもモースを早々に抑えておくべきだったのかも知れない。後悔ばかりが押し寄せてくる。だけど、済んだ過去を振り返って悔やんでも何にもならない。全ては仮定の域を出ない事だ。
過去を悔やむのではなく、亡くなった者が安心出来るように今やれる精一杯をする事こそが、イオンに対しての彼らなりの誓いで決意だろう。
ティアの歌声が途切れた。その瞬間、パァッと辺りが白い光に包まれる。
((…………ありがとう))
輝く白い光の中、ポツリと聞こえてきたその声は聞き間違える筈もない相手。慰霊の対象たるイオンの声だ。
「……っ。……イオン……様っ」
常と変わらない優しく柔らかいその声に、アニスが言葉に詰まった。そのまますぐ傍に立っていたルークにしがみつく。しがみついてきたアニスの背中に手を回してポンポンと一定のリズムで叩くルークの眦(まなじり)にも、涙が光った。
「ティア」
「何? ルーク」
イオンの声が聞こえた慰霊祭も終わった後、ルークがティアに声をかけた。振り返ってティアが小さく首を傾げた。
「あのさ……譜歌って俺でも歌えるかな?」
ルークの口から飛び出してきた意外な言葉に、ティアが目を丸くする。
「歌えると思うけど……どうしたの、急に?」 「俺も……イオンの為に歌ってやりたいんだ。…………歌、下手だけど」
「……上手い下手とかじゃないわ。相手を思って歌っているか、いないかよ。ルークが歌ったら、イオン様、きっと喜ぶわ」
「……そうかな」
「そうよ」
キッパリと言い切って、ティアが微笑んだ。
初めてあったあの時から、ルークを優しいと言っていた幼い風貌の少年。その少年が、ルークに歌ってもらって喜ばない筈がない。
「じゃあ、簡単な第一譜歌教えるわね。全部通しては時間がかかるから、また今度ね」
「うん」
ルークに分かりやすく、一文字一文字区切ってティアが歌っていく。ティアが奏でる音程を辿って、たどたどしくルークが譜歌を奏でる。何度もそれを繰り返す内にたどたどしさが消えて、ティアには叶わないが綺麗な旋律となる。
「ルークは覚えるのが早いわ」
「そうなのか?」
「えぇ、早いわ」
「そっか……」
褒められて照れくさそうに、ルークが微笑った。ティアもフワリと口元に笑みを浮かべる。
「さ、イオン様の為に歌ってあげて?」
「……うん」
スゥと息を吸い込んで、静かに声を紡ぎ始める。ティアよりも低い声が、ティアと同じ歌を奏でる。ルークが奏でる歌に気が付いた仲間達がその動きを止めて、静かに歌に聞いて、祈った。
今は亡き彼の為に奏でる旋律が、晴れ渡った空に響いた。